本教室について

介入研究

2型糖尿病は、遺伝因子に過食、肥満、運動不足、ストレスなどの環境因子が加わって発症します。慢性的に続く高血糖や代謝異常により、様々な合併症を引き起こすため、糖尿病の治療は、血糖値を正常パターンに近づけることにより、合併症の発症・進展を予防することでQOLを維持することを目的としています。実際の臨床現場では、食事療法、運動療法、薬物療法を3本柱として治療が行われています。

当教室では3本柱、それぞれに対して、最適な治療の確立を目的に科学的根拠、エビデンスを発信しています。また、食事・運動・薬物単独ではなく、それぞれの相互作用についても注目しています。

食事療法について

糖尿病患者に対する新たな米飯食の提案

食事療法は糖尿病治療の基本とされており、特に主食である米の摂取のあり方は、日本人を含む東アジア地域の人々にとって重要です。

玄米は糖尿病の発症予防効果がありますが、その特有の食感等により継続摂取が困難な場合が多いです。我々はうるち米ではなくもち米の玄米(もち米玄米)を用いて血糖変動および継続可能性について研究しています。

また近年、食後血糖の是正目的に難消化デンプン(レジスタントスターチ)を豊富に含んだ米の開発が進んでいます。沖縄科学技術大学院大学(OIST)が開発した米は、他の米と比較しても多くのレジスタントスターチを含んでいます。この米を提供頂き、血糖変動および継続可能性について研究しています。

これらの研究を通して、糖尿病患者さんに対して、新たな米飯食、食事療法を提案することを目的としています。



表:OIST米玄米の成分分析(沖縄科学技術大学院大学 佐瀨 英俊 先生より提供)

肥満者における体脂肪特異的減量を実現する食事理論に関する研究

肥満を伴う2型糖尿病例に対して、極端な炭水化物制限+高蛋白+高脂肪の糖質制限食が注目されていますが、様々な点からこの方法は疑問視されています。本研究では、肥満例に対し、脂肪特異的な減量と筋肉量の維持のためには、筋肉内グリコーゲン蓄積に影響しない程度の軽度な蛋白増加バランスが最適と推測され、食事理論に関して肥満者に対する最適な栄養バランスを検証することを目的として研究しています。

運動療法について

自宅でできるレジスタンス運動の提案とサルコペニア予防および血糖改善効果の検討

高齢者では筋肉量と筋力が年々減少し、ADLの低下や転倒・骨折の重大なリスクになります。この病態はサルコペニアと呼ばれます。筋肉はインスリンの主要な標的臓器ですから、サルコペニアはインスリンの効きを悪くし、糖尿病患者さんの血糖管理に不利に働きます。サルコペニアの改善・予防にはレジスタンス運動が推奨されています。しかし通常レジスタンス運動は、マシンを用いた筋肉トレーニングを想定していて自宅で行える方法は確立されていません。我々は1.5~2.0 mのゴムチューブを用いて自宅で毎日行えるレジスタンス運動を開発し、ホームページで紹介しています。このゴムチューブを用いた運動は高齢糖尿病患者のサルコペニア進行予防と血糖コントロール改善に有用であるという仮説をもとに検証しています。

  • 図.セラバンド®:色によりゴムチューブの強度が異なる。

  • 図.ホームページにて紹介しているレジスタンス運動
    こちらをご参照下さい。

薬物療法について

各種血糖降下薬が2型糖尿病患者の体組成におよぼす影響についての検討

本邦の2型糖尿病患者さんは、肥満によるインスリン抵抗性だけでなく、インスリン分泌不全を主病態とした非肥満の方も多く存在します。また、現在、糖尿病患者さんに対して、経口薬7種類、注射薬2種類の血糖降下薬が使用可能です。これらを患者さんの病態に合わせて、使い分ける必要があります。特に、体脂肪に及ぼす影響は薬剤によって、大きく異なります。

本研究ではインクレチン製剤であるGLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、尿中に糖を排出することで血糖の改善を図るSGLT2阻害薬などを対象に各種画像検査で内臓脂肪量、肝内脂肪量を測定し、多角的に評価・検討しています。

インクレチン関連薬による胃排出能遅延効果の定量的評価と血糖安定化の検討

GLP-1受容体作動薬 にはインクレチン作用以外にも中枢性食欲抑制作用、胃排出能遅延作用など多彩な生理作用を有することが知られています。これまでにも、13C 呼気ガス分析法を用いて糖尿病神経障害による胃排出能遅延を定量的に評価しましたが、本研究ではGLP-1受容体作動薬投与による胃排出能遅延効果を呼気ガス分析法にて定量的に評価することや、血糖安定性に対する胃排泄能遅延効果の寄与について研究しています。また、インクレチン関連薬の一種であるDPP-4阻害薬にもGLP-1受容体作動薬同様、胃排泄遅延効果があるかについても研究しています。


  • 図.呼気ガス分析結果:
    青線はコントロール。
    黄線は胃排泄遅延を有した糖尿病の症例。

慢性便秘症を合併する糖尿病患者に対する胆汁酸トランスポーター阻害薬 エロビキシバットの効果の検討

エロビキシバットは2018年4月に保険収載された新しい慢性便秘症の治療薬で、胆汁酸トランスポーター(IBAT)阻害薬と呼ばれます。胆汁酸とは、肝臓でコレステロールから合成される物質です。肝臓で合成、食事に伴って十二指腸へ分泌され、脂肪の消化・吸収に関与します。分泌された胆汁酸は小腸で約95%が再吸収されます。一方、再吸収されなかった胆汁酸は大腸に到達します。大腸内部で胆汁酸が増加すると、胆汁酸の働きで大腸内へ水分が分泌され、また消化管運動が促進することが知られています。エロビキシバットは、小腸における胆汁酸の再吸収を阻害します。この作用により、大腸へ到達する胆汁酸が増加するため、大腸内への水分分泌と大腸運動促進の2つの作用で排便効果を促し、便秘症を改善するとされています。本研究ではエロビキシバット服用による慢性便秘症を合併する糖尿病患者さんへの有効性および安全性を検討します。併せて糖代謝への影響を評価します。

遠隔糖尿病回診支援サービス

昨今のコロナ禍の影響で、遠隔診療の地位は大きく向上したことは言うまでもありません。しかしながら、いまだに明確な地位を築くことが出来たとは言えず、診療報酬が認められるのは極わずかな限られた疾患のみです。実際に遠く離れた主治医が患者に薬を処方する時代はまだまだ先の事になるはずです。

一方、増加する糖尿病患者、寝たきり患者のインスリン需要、糖尿病専門医の偏在化、種々の問題から、特に地方には専門的な治療を受ける事が出来ない糖尿病患者が多く存在しています。その裏には非専門医の先生方の頑張りがあることも忘れてはいけませんが、大学病院でも糖尿病患者の血糖コントロールは専門家の定期的な「回診」を要します。そこに問題は起こっていることは、あまり取り上げられていません。過去のデータではありますが、糖尿病死亡率と専門医数の間には、弱いものの逆相関(r=-0.42)が存在します。

そこで我々は、富士通BSCと協力し「遠隔糖尿病回診支援サービス」を開発、糖尿病専門医がネットワークを用いて介入可能なシステムを構築・実用化することで、医療従事者、患者双方の負担軽減のみならず、専門医の不足している地域の糖尿病医療レベルの上昇、ひいては全国の糖尿病診療レベルの均一化を目的とし、活動しています。